物語4・第4章|神殿の崩壊と未来への預言 〜『ポイマンドレース』+『アスクレピオス』より〜
それは、ある黄昏の刻だった。
空が血のように赤く染まり、砂漠に冷たい風が吹き始めていた。
ヘルメスは、神殿の柱にそっと手を添えながら、静かに呟いた。
「……この神殿も、やがては崩れ去るであろう。」
タトが顔を上げ、師を見る。
「なぜです?この神殿は、あなたが築いた真理の場所。
神の叡智が語られ、人々が魂を清める場です。」
ヘルメスは、遠くアレクサンドリアの街を見渡しながら、ゆっくりと語った。
「タトよ……
時代は変わり、人々の心は外にばかり向かうようになる。
真理よりも物質を追い、魂よりも身体を崇めるようになる。
神の言葉は忘れ去られ、嘲笑の対象となる。」
タトは沈黙する。
言葉が出なかった。
ヘルメスは続けた。
「かつて神と語り合っていた者たちは消え、
商いと政治の声が、神殿を満たすであろう。
病は蔓延し、愛は軽んじられ、
神聖なるものは"愚か"とされる時代が来る――」
タトは、震える声で尋ねた。
「では、希望は……もう残されていないのですか?」
ヘルメスは、タトの肩に手を置き、深く目を覗き込んだ。
「いいや。希望は消えない。
なぜなら、たとえすべてが崩れても、
《真理は沈黙の中に息づき続ける》からだ。」
「そして、必ずまた目覚める魂が現れる。
一握りの者たちが、光の記憶を取り戻し、
神と人との間に架け橋をかけるであろう。」
タトの瞳に、再び火が灯る。
「私が、その架け橋になりましょう。
師の言葉を、命をかけて継ぎます。」
ヘルメスは微笑み、ひとつ深く頷いた。
「それでよい。タトよ、真理は書物ではなく、《生きた魂》によって伝わるものだ。
おまえ自身が、歩く神殿となりなさい。」
風が神殿の柱を包み込み、遠く雷鳴のような音が響いた。
だがその音は恐れではなく、大いなる始まりの合図のように、二人の胸を打った。
こうして、
真理の言葉はタトへと託され、未来へと静かに流れ出した――
それは、いつかまた「光を求める魂」によって再び目覚める、
永遠の叡智の種子であった。
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